名コピーに学ぶ、キャッチコピーの論理的な作り方&5大テクニック
いいキャッチコピーって、どうやったら作れるんだろう。
コピーライターでなくても、そんな悩みを持っている人は少なくないはずです。
商品宣伝、キャンペーン告知、リスティング広告文にブログやメルマガのタイトル。現代社会において、キャッチコピーが必要とされるシーンは多種多様です。
人を引き付ける魅力のあるキャッチコピーには、どうやって作られているのでしょうか。ごく一部の天才的なセンスを持つ人が、ひらめきで作っているのでしょうか。
いいえ、違います。
キャッチコピーは、ひらめきやセンスで作る芸術品ではありません。
伝えたい相手のことを入念に考え抜き、何度も練り直して作成された、技術と労力の結晶なのです。
特別な感性は学ぶことができませんが、技術なら習得することができます。
この記事では、キャッチコピーの書き方をロジカルに解説していきます。
いわゆる名コピーと呼ばれるものたちも、構造を分析していけば、センスやひらめきだけではなく頭で考えて作られていることがわかるはずです。
一握りの人にしかないセンスやひらめきではなく、堅実な作業とテクニックで、人の心を動かしてみたくはありませんか?
手順と技術をしっかりおさえておけば、これまでよりも格段に良質のコピーを作成できるようになります。
そのノウハウを、詳しく解説していきましょう。
目次
1.「良質なキャッチコピー」の定義
キャッチコピーを作る前に、いいキャッチコピーとはなんなのか定義しておきましょう。
結論から述べれば、いいキャッチコピーとは、「消費者を誘導できるコピー」のことです。
新商品のコピーなら新商品へと、ECサイトのコピーならECサイトへと、そのコピーが載せられたもの自体への関心を引き出すコピーが、優れたコピーです。
では、どんな性質を持つコピーであれば消費者を誘導できるのでしょうか。
1-1.優れたコピーは心を動かす
キャッチコピーは、記事や商材などのコンテンツまで消費者を誘導するためにあります。
読み手を誘導するためには、まず「これはなんだろう?」「続きが知りたい」と興味を引かなければなりません。
そして、「これはなんだろう?」という疑問や「続きが知りたい」という好奇心は、心が動いたからこそ発生します。
キャッチコピーで心が動けば、読み手はコンテンツに手を伸ばしてくれるのです。
どんなに洗練されていても、どんなに的確に情報を伝えていても、心に響かなければ意味がありません。
相手の心を動かすコピーが、消費者を誘導できる、優れたキャッチコピーなのです。
1-2.論理で作り、心に伝える
人の心を動かす、といわれると「特別なセンスがなければできない」と思い込みがちです。
しかしそうではありません。
褒められれば嬉しいように、貶されたら悲しいように、心の動きには仕組みがあります。
その仕組みに対してロジカルに働きかけることで、人の心は動かすことができるのです。
キャッチコピー作りはマーケティングに似ています。
より大きな括りでいえば、ビジネスと似ています。
対象とする人々のニーズや背景をよく考えて、戦略的にアプローチすれば、特別なセンスがなくても人の心を動かすことは可能です。
相手の立場を、生活を、気持ちを考えて、論理的に戦略を組み立てていく。
コピーを届けたい相手を深く知る意志とノウハウが揃ったとき、論理は人の心を動かします。
2.心を動かすキャッチコピーの作り方
それでは、キャッチコピーの作り方を具体的に解説していきます。
ひとつひとつの作業は地味ですし、確実にこなせば時間もかかります。
しかし、以下の手順を踏むか踏まないかでは、完成したコピーに大きな差が出てきます。
2-1.目的を明確にする
最初にはっきりさせなければならないのが、そのキャッチコピーを作る目的です。
なにを宣伝するためのコピーなのかを明確にしなければ、なにを伝えたいのかよくわからない、曖昧なコピーになってしまいます。
コピーの方向性を決めるために、目的を知ることは必要不可欠なのです。
民間企業が作成するほぼすべてのコピーは、集客や売上のアップを目的としています。
だからといって、「キャッチコピー作成の目的は集客」だけで満足してはいけません。
精度の高いキャッチコピーを作成するためには、もっと掘り下げて理解する必要があります。
2-1-1.課題を明らかにする
設定された目的には、必ず課題が存在します。
目的とは、なんらかの阻害要因があって目標が達成されていないからこそ設定されるものです。
その阻害要因、解決するべき課題を明確にすることで、ぶれないキャッチコピーを作ることができます。
たとえば、売上アップを目的としてコピーを作るとき、そこには「目標値に売上が到達していない」という課題が存在します。
そこからさらに踏み込んで「なぜ売上がのびないのか」という理由を、考えられる限りすべてピックアップしていきましょう。
すると、「価格が高い」「使用法や購入方法がわかりづらい」「他社との差別化がされていない」などの理由が明らかになってきます。
価格が高くて売れていない商品に、使用法をアピールするコピーを書いても意味がありません。ここで必要なのは、価格の高さをカバーするコピーです。
このように、課題を明確にしておくと、方向性のぶれがなくなります。
これまでの消費者の傾向や数をまとめた具体的な資料があれば、ここで分析しておきます。
なにがいつ誰に売れたのか、なぜ売れたのか、という理由を洗い出していきましょう。
ここで深く考察しておくと、このあとの「解決策を見つける」「対象を絞り込む」という2つのステップが格段にスムーズになります。
2-1-2.解決策を見つける
課題が明らかになったら、その解決策を探します。
集客や売上が課題であった場合、競合他社の苦手分野や自社の得意分野を切り口としていくと、解決策が見つけやすくなります。
課題を多角的に考察し、もっともアプローチしやすいポイントを探しましょう。
たとえば競合他社との価格競争で負けている場合、あえてブランド性を打ち出して、性能や品質などをアピールすることが解決の糸口となる可能性があります。
仮に課題の解決策が「競合他社よりも高い性能」であるとしたら、「競合他社よりも高い性能をアピールするコピー」こそが、必要なキャッチコピーとなります。
2-2.対象を絞り込む
課題の解決策が見つかってコピーの方向性が決まったら、対象を絞り込みます。
ターゲット層には、課題の解決策にもっとも反応してくれそうな層を選定します。
たとえば、先に挙げた「競合他社よりも高い性能」に反応してくれるのは、どういった層でしょうか。
仮に商品が「低価格で高スペックな自動二輪車」だった場合、「女性より男性」「中高年層より若年層」などのターゲット像が浮かんできます。
それがキャッチコピーを届ける対象になります。
この抽象的なイメージを、さらに掘り下げていきましょう。
ターゲットは「20代男性」などのカテゴリで設定するのではなく、具体的な個人までイメージを落とし込む必要があります。
読み手の価値観を理解できなければ、その人の心を動かす言葉も作れないからです。
相手の価値観を理解する、というと、抽象的で難しい作業のように思えます。
それこそ感性やセンスが問われる分野だと感じる人もいるでしょう。
しかし、最初から相手の感情や気持ちを想像するのではなく、行動や服装など目に見えるものを先に想像し埋めていくことで、気持ちは理解しやすくなります。
「20代男性」といわれるよりも、「バイカーファッションが好きで、ライダースジャケットを複数所持している。週末は必ず大勢の仲間たちとツーリングに出かける。平日出勤の若手会社員で、通勤にはバイクを使用している。アウトドアが好きな20代男性」といわれる方が、価値観を想像しやすくありませんか?
このような、想定される顧客像のことを、マーケティング用語でペルソナといいます。
あなたが想定するペルソナは、どんな服を着て、どんなものを食べているのでしょうか。
家族構成や交友関係、休日の過ごし方や一日の生活リズムが想像できますか。
実際に街中などでそのターゲット層を観察しながら、イメージを明確にしていきましょう。
電車内など多数の人がいる空間で、ターゲット層の会話に耳を傾けることなども役に立ちます。
想像だけでは、固定観念によって実態と乖離したよるペルソナを形成してしまう可能性があります。必ず足を使ってターゲット層を観察するようにしましょう。
価値観が多様化していく現代において、すべての人に響く言葉などほとんどありません。
どういった価値観を持つ人に届けたいのか、対象を明確に理解することが、刺さるコピーを作るコツです。
2-3.訴求ポイントをピックアップする
ターゲットを絞り込んだら、伝えるべき訴求ポイントをピックアップしていきましょう。
訴求ポイントとは、ターゲットにアピールできる、商品の魅力です。
これを思いつく限り書き出していって、キャッチコピー作成の素材とします。
これまでのバイクの例であれば、以下のような魅力が考えられます。
- 他社の同価格帯にはない高スペック
- 加速性能の高さ
- 抜群の安定感
- 高級感のあるルックス
このように、ターゲットにとって魅力的なポイントを、思いつく限りすべて書き出していきます。
すべて出し尽くしたら、今度はそれぞれに優先順位をつけて、有用なものだけをピックアップしていきましょう。
ここで複数のキーワードを取捨選択することによって、より訴求力の高い情報をピックアップできるのです。
訴求ポイントの書き出しと選別作業には、注意しなければならないポイントが2点あるので、詳しく解説していきましょう。
2-3-1.売り手目線ではなく買い手目線
キャッチコピーは、売り手ではなく買い手の目線から書かれなければなりません。
ですから、訴求ポイントの書き出しも、買い手目線で行わなければなりません。
売り手には、商品についてアピールしたいポイントがたくさんあることでしょう。
しかしそれをただ書き連ねるだけでは、心を動かすコピーは作れません。
こう言われたら買い手はどう思うか、ということを常に意識して、買い手の目線になって文章を作るべきです。
例として、先ほど挙げたバイクの訴求ポイントを、買い手目線で書き換えてみましょう。
他社の同価格帯にはない高スペック
↓
高スペック機を相場より安価に入手できる
文章内に主語を挿入してみるとわかりやすいのですが、「他社の同価格帯にはない高スペック機(を私は販売します)」というように、前者は売り手の目線で書かれています。
一方、後者は「(私は)高スペック機を相場より安価に入手できる」というように、買い手の目線で書かれていることがわかります。
また、「他社」という言葉は「自社」の対義語です。
自社という概念が下地にある言葉なので、買い手にとっては他人事のように聞こえるでしょう。そういった言葉は、極力排除することが望ましいといえます。
売り手目線のセールスコピーは、押し売りのような印象を与えがちです。
一方、買い手の目線に立ったコピーは、買い手の悩みや課題に寄り添い、親しみを感じさせます。
常に「ターゲットならどう感じるか?」「ターゲットならどう言うか?」ということを意識して、自分本位の押し売りになっていないか精査する必要があります。
2-3-2.メリットではなくベネフィット
キャッチコピーは、商品のメリットではなく、商品を使用したときに読み手が得られるベネフィットを提示しなければなりません。
ベネフィット(benefit)とは、直訳すると「利益」「ためになること」などの意味を持ちます。
転じて、マーケティング用語では「商品を使用したときに顧客が得られる利益」という意味になります。
メリットとの違いがわかりづらいので、簡単にまとめてみました。
メリット
その商品自体の長所。性能やデザインなど、優れている点のこと。
たとえば、「抜群の安定感」「高級感のあるルックス」など。
ベネフィット
その商品を使うことによって、使用者が得られる利益のこと。
たとえば、「安定感があり、高速走行時も危険を感じさせない」「ルックスに高級感があり、周囲の注目を集められる」など。
有名な格言で、「ドリルを買いにきた人がほしいのは、ドリルではなく穴である」という言葉があります。
消費者は道具を求めているのではなく、道具を使うことによって得られる結果がほしいのです。
ですから、ドリルの優れている点を並べ立てるのではなく、その優れている点によってどんな穴を開けられるのか、という具体的なイメージを提示することが重要なのです。
2-4.情報をまとめ、整理する
今度は、先ほどピックアップした訴求ポイントを、まとめて整理していきます。
バイクの例をみてみましょう。
ピックアップされた訴求ポイントは、以下の4点です。
- 高スペック機を相場より安価に入手できる
- 加速性能が高く、誰よりも速くスタートできる
- 安定感があり、高速走行時も危険を感じさせない
- ルックスに高級感があり、周囲の注目を集められる
これらの情報を整理するために、各訴求ポイントがなにについて訴えているのか、それぞれどんな関係性があるのかを考えていきましょう。
バイクの例の場合、以下のようにグループ分けできます。
訴求ポイントはそれぞれ違うことを述べていますが、突き詰めると、すべてコストパフォーマンスについて言及していることがわかります。
ルックスもスペックも、同価格帯よりも優れている、ということがポイントなのです。
つまり、「同価格帯にはないルックスとスペック」が、この商品のもっとも大きな魅力だということです。
このように、それぞれの訴求ポイントがどういった関係性にあるのか、構造を理解していきましょう。
すると、絶対に訴えなければならない情報がみえてきます。
この場合、絶対にアピールしなければならないポイントは、コストパフォーマンスです。
つまり、「高スペック機を相場より安価に入手できる」ことが必ず入れるべき情報となります。
また、それ以外の3つは、そこから具体的な魅力をアピールするために使用できることがわかります。
これまでの情報を整理すると、以下のとおりになります。
キャッチコピーで必ず伝えるべき情報
- 高スペック機を相場より安価に入手できる
具体的な魅力をアピールするために、適宜盛り込むべき内容
- 加速性能が高く、誰よりも速くスタートできる
- 安定感があり、高速走行時も危険を感じさせない
- ルックスに高級感があり、周囲の注目を集められる
これらの情報が、キャッチコピーの素材となります。
2-5.情報を簡略化し、多数の案を作る
整理した情報をもとに、いよいよキャッチコピーを作っていきます。
主となる情報を中心に据え、具体的な魅力を適宜挿入しながら、キャッチコピーを作成してきましょう。
2-5-1.訴求ポイントを簡略化する
キャッチコピー作成でもっともオーソドックスな手段が、情報の簡略化です。
基本的に、キャッチコピーは30字以内がいいといわれています。
端的に認識できるものでないと、買い手はキャッチコピーを読んでくれないからです。
ピックアップした訴求ポイントは、それなりに長い文章になっているはずです。
それをどんどん簡略化していきましょう。
言い換えや体現止めなどを駆使することで、文章は短くしていくことができます。
バイクの例で、主軸となる訴求ポイントを短くしてみましょう。
高スペック機を相場より安価に入手できる(19字)
↓
高スペック機を安価に入手できる(15字)
↓
高スペック機をこの価格で(12字)
↓
この性能で、この価格(10字)
簡略化させることで、訴求ポイントがぐっとキャッチコピーらしい形になりましたね。
しかし、簡略化させた訴求ポイントに主語を挿入してみると、買い手目線とも売り手目線とも受け取れることがわかります。
この性能で、この価格(のバイクを私は提供します)
この性能で、この価格(のバイクを私は入手できます)
どちらでも成立してしまいますね。
これを読み手目線に戻したければ、少し言い回しを変えてみましょう。
この性能で、この価格
↓
この性能でこの価格なんて、嘘だろ。
主語を挿入してみると、「この性能でこの価格なんて、嘘だろ(と僕は思う)。」となり、買い手目線へと戻せていることがわかります。
このように、訴求ポイントを主軸として、さまざまな切り口から案を出していきましょう。
2-5-2.とにかく多数の案を出す
ここから先が、キャッチコピー作りでもっとも時間と労力のかかる行程です。
広告業界には、「コピー100本ノック」という言葉があります。
コピー100本ノックとは、同じお題に対して100本のアイディアを出していく、という新人コピーライターに対する定番課題です。
さまざまな視点からコピーを見つめ、それぞれがどういった働きをするかよく検討し、あらゆる可能性の中から最適な1本を選び出すのです。
キャッチコピー作りは数です。
プロのコピーライターでも、1本の案件に100本以上のコピーを持っていくことがあるといいます。
2、3本書いて諦めるのではなく、切り口や表現を変えて数をこなして、最適な形を模索していくことが重要なのです。
とはいえ、どのように変化させたらいいのか、という点がもっとも難しいポイントだと思います。
その方法を、次の章で解説していきましょう。
3.名作に学ぶ5つのテクニック
この章では、コピーライティングにおいて有用な5つのテクニックを解説していきます。
そのために、過去から現在にいたるまで、色褪せずに残っている名コピーを集めてきました。
ここでは、名作キャッチコピーで使用されているテクニックを、具体的に解説していきます。
すぐに活用できる手法ばかりなので、自作コピーにも取り入れてみるといいでしょう。
なんとなく作ったときとは違う、心を揺さぶるキャッチコピーへと近づけるはずです。
3-1.共感を引き出す
相手の共感を引き出すことは、コピーライティングの王道中の王道といえます。
「あ、わかる」という気持ちは、広告と人の間にある距離を、すっと縮めて親しみを感じさせます。
共感を引き出すキャッチコピーには、必ず主語が隠されています。
その主語は必ず読み手であり、使われている言葉もターゲット層が使用する言葉ばかりです。
読み手が深く意識することなく、自分の言葉のように、自然と受け入れられるキャッチコピーが読み手を共感させることができます。
具体例を出して解説していきましょう。
試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。
非常に有名な、ルミネの名コピーです。
恋をしているときは、服を選ぶことも一大事です。
試着室の中で、この服を着ていったらあの人はどう思うかな、と思い出すふとした一瞬。
その一瞬を切り取ったこのコピーは、恋をしている人や、過去に恋をしていた人の心を強く揺さぶります。
構造をよくみてみると、「試着室で思い出したら、本気の恋だと(私は)思う。」というように、「私」という主語が隠されていることがわかります。
この「私」は、絞り込まれたターゲット層、ペルソナです。
ファッションが好きで、恋をしている女性。そのペルソナの視点が、同じ立場の人を共感させているのです。
また、ここで注目したいのは、この作品がファッションビルのキャッチコピーだということです。
人の共感を誘うために恋愛をテーマにするのはよくある手法ですが、共感はできても商品とたいして関係がない、というコピーも多く見受けられます。
しかしこのコピーは、恋愛で共感を誘いながらも、商品であるファッションをたった20字のなかにきっちり織り込んできています。
ターゲットである若い女性を共感させるだけではなく、共感させてファッションに意識を向けさせる。
単なる詩的な言葉ではなく、キャッチコピーとして練られていることがわかります。
君が好きだと言う代わりに、シャッターを押した。
30年以上前の作品ですが、いまだに名コピーとして紹介され続けている、オリンパスの一眼レフカメラOM-10のキャッチコピーです。
好きだなんて恥ずかしい言葉は言えないけれど、レンズに映る人のことをとても大切に思っている。そんなあたたかな視線が目に浮かぶようです。
この作品にも、「君を好きだと言う代わりに、(僕はカメラの)シャッターを押した。」というように、「僕」という主語が隠されています。
シャイな男性心理を丁寧に拾い上げ、共感を集めた作品です。
上記のルミネは女性をターゲットとしていますが、こちらは男性をターゲットとしていることが窺えます。
1980年当時、「君」という二人称を使用する人はほとんど男性でした。
相手の立場に立ち相手の使用する言葉を使う、という基本がきっちり押さえられていることがわかります。
また、このキャッチコピーが使用された「OM-10」は、プロの道具だった一眼レフカメラをファミリー向けとして打ち出した、画期的なモデルでした。
CMも若手女優の大場久美子を起用し、敷居の高さを感じさせない工夫が、随所に凝らされています。
そこに共感を引き出すキャッチコピーをのせることで、「難しそう」「自分にはできない」といった、ネガティブなイメージの排除に成功しています。
このことから、目的とターゲット層を明確にし、戦略的にアプローチしていることが窺えます。
3-2.視点を変える
テクニック2つ目は、視点の転換です。
繰り返し述べているとおり、キャッチコピーは売り手側の押し付けにならないよう、読み手目線であるべきです。
にも関わらず「視点を変える」とは、どういうことでしょうか。
ここでいう「視点を変える」とは、「読み手目線をやめて自分目線でコピーを書く」ということではありません。
「読み手の行動や価値観を、違う視点から切り取る」ということです。
これだけではわかりづらいですね。
名コピーを具体例として、解説していきましょう。
「母が笑う」を、私がもらう。「父が照れる」を、私がもらう。
このキャッチコピーは、東武百貨店の母の日父の日のキャンペーンで使用されました。
読むだけで幸福感を覚えるような、愛のある素晴らしいコピーです。
一般的に、プレゼントを贈ることは「相手に利益を与える行為」だと認識されています。
しかしここでは、プレゼントを贈ることによって「自分が利益を受け取る」という見方がされているのです。
これは、ベネフィットに対する視点の転換といえます。
一般的にプレゼントは受け取る側のベネフィットを考えながら選択されますが、それはともすれば、消費者自身にとって他人事の作業となりうることを意味します。
本来、買い物とは選択の楽しみがある行為ですが、仕方なく選ぶプレゼントにはそのワクワク感が欠けているのです。
このキャッチコピーは、消費者に対して、プレゼントを贈るという行為にある根源的な喜びを取り戻させる役割を果たしています。
ギフトとは本来、義務感から贈るものではありません。習慣だから、イベントだから贈るのではなく、相手を喜ばせたいから贈るのです。
このコピーは、相手を喜ばせるためにプレゼントを贈り、そのことによって自分も喜びを感じる、という幸福の連鎖を想像させます。
プレゼント選びに対するポジティブな喜びを提示することによって、習慣や義務感といったネガティブなイメージの中から、消費者自身のベネフィットを取り戻させているのです。
売り手側の都合を押しつけることなく買い手側の購買意欲を喚起させるこのコピーは、非常に優れているといえます。
日本人にもっと毒を。 / いい毒は薬。宝島社の活字
毒、というマイナスのイメージを喚起させる言葉を大胆に使用した、宝島社の名コピーです。
このコピーは、言葉の持つ社会的イメージへ、違う切り口の視点を提示しています。
毒という言葉は、ネガティブなイメージを喚起させます。
毒を盛る、ときいて好意や善意を想起する人は、ほとんどいないでしょう。
しかしながら、人を害するイメージを持つ毒と、人を救うイメージを持つ薬は、本来的にまったく別物の概念ではありません。
有名な例を挙げれば、麻薬の代表格であるモルヒネも、適切に使用すれば有用な鎮痛剤となりえます。
毒は薬にもなりうる、と訴えるこのコピーは、固定観念による思考停止状態への問題提起として機能しています。
あえてマイナスのイメージを持つ言葉を使用することによって、強いインパクトを残し、相手の価値観を揺さぶる。
政治や文化に対して攻撃的といえるほど新しい切り口を提案し続けてきた、同社のブランドイメージに寄り添う、良質なコピーです。
なお、この作品は、キャッチコピーに続くボディコピーも非常に秀逸です。
同様のテクニックがふんだんに使用されているので、興味のある人は読んでみるといいでしょう。
3-3.普遍性を提示する
これは、「3-1.共感を引き出す」と「3-2.視点を変える」を複合したテクニックです。
個人の感情に訴え共感を引き出すコピーには、「私」や「僕」といったペルソナの一人称が隠されていました。
この手法は、感受性の高い層には訴求力が強いのですが、ある程度落ち着いた年代や価値観の人にはあまり受け入れられません。
そういったターゲット層を揺さぶるためには、ペルソナの主体に対する視点を変えてみると効果的です。
具体例を出して解説していきましょう。
恋が着せ、愛が脱がせる。
これも30年近く前のコピーですが、未だに名コピーとしてたびたび紹介されるものです。
服という商品にある「脱ぐ」「着る」という単純な二つの行為を、「恋」「愛」という二つの概念と結びつけることによって、美しい対比を成立させています。
このコピーの構造はどうなっているのでしょうか。
先に紹介したルミネのコピーと比較してみると、簡単に理解することができます。
いずれのコピーも恋愛に関するものですが、個人的な心の動きを主軸としているルミネに対して、こちらはやや俯瞰的な視点を備えています。
ルミネのコピーには「(私は)思う。」という自ら思考するペルソナが隠されていましたが、伊勢丹のコピーはどうでしょうか。
ルミネと同様に、ペルソナを挿入してみましょう。
すると、「恋が(私に服を)着せ、愛が(私に服を)脱がせる。」というように、恋や愛という普遍的な感情が主体となり、私というペルソナは受け手となっていることがわかります。
主体への視点を変化させて、ペルソナを受け手側に回すことによって、個人的な感情が入り込みすぎない客観性を保持させることができます。
また、移ろいやすい個人の感情ではなく、普遍的な感情を主体とすることによって、主観的な感情では共感させにくい層にも訴えかけることができるのです。
ファッション系で恋愛を扱ったコピーとしては、先述のルミネのコピーとこちらの伊勢丹のコピーは、同じカテゴリに属します。しかし構造を分析していくと、アプローチの手法はまったく異なるということが理解できます。
個人の感情に訴求するものと、普遍的な価値観に訴求するものという違いです。
ルミネのターゲット層が感受性の強い若年層であるのに対して、伊勢丹のターゲット層はもう少し上の、人生経験を積んだ層になります。
それぞれ違うアプローチですが、両者とも、それぞれのターゲット層にふさわしい働きかけをしているといえるでしょう。
たった12文字の中にブランドの世界観を詰め込んだ、素晴らしいキャッチコピーです。
3-4.不安を指摘する
あえて不安を想起させることも、テクニックのひとつです。
心理学において、不安とは「自己価値を脅かすような破局や危険の漠然とした予感」である、と定義されています。
少しわかりづらいですが、要するに、抽象的な悪いイメージのことです。
人は本来、不安を感じる生き物だといわれています。
なにか原因があるから不安なのではなく、不安感は常にあって、そこに後づけで理由を作るのだという分析もあります。
つまり、不安になる要素を言語化して指摘すれば、多くの人に訴求できる可能性がある、ということです。
その心理を利用し、身近な不安を指摘することで、解決策である商品へと意識を向けさせることができます。
具体例を出して解説していきましょう。
家は路上に放置されている。
宣伝会議賞の第46回グランプリ賞を受賞した作品です。
読んだ瞬間、暗い道のなかにポツンと置き去りにされた、灯りの消えた一軒家が思い浮かぶようです。
このコピーのポイントは、放置、というキーワードです。
構造を分析してみるとわかるのですが、このコピーには「3-2.視点を変える」テクニックも使用されています。
家を「建築物」ではなく「所有物」として捉えることによって、「留守」ではなく「放置」という言葉が出てきたのです。
放置、という言葉からは、漠然とした不安が感じられます。
自宅を留守にしている、といわれても、特になにも感じません。
しかし、自宅を放置している、といわれると、本来なされるべきことがなされていないような焦燥感が生まれてきます。
これは、防犯セキュリティに対する潜在的な不安を指摘しているからです。
防犯対策とはある種終わりのない分野で、どこまでやったら完璧、と言い切ることはできません。
また、ほとんどすべての人に共通する、非常に身近な課題でもあります。
読み手が漠然と抱いている不安を言語化することによって、商品であるホームセキュリティへと思考を誘導する、良質なコピーです。
3-5.あえて隙をみせる
最後のテクニックは、これまでと少し系統の違う、SNSによる拡散を目的とした手法です。
近年、SNSの浸透により、メディアではなく一般の個々人が発信力を持つようになってきました。
いわゆる「口コミ」の伝搬力が非常に強い時代になってきた、といえます。
人々の話題になるコピーは、それだけで宣伝効果が高いものになります。
そのために、誰かに伝えたくなるような隙、つっこみどころをあえて残しておくこともテクニックのひとつです。
具体例を出して解説していきましょう。
コーヒーとショートケーキ、おいしい。
2016年2月に、「へたくそすぎて萌える」とSNSで話題になったキャッチコピーです。
これまで書いてきたとおり、キャッチコピーはさまざまなテクニックを使用して作られるものです。
しかしこのコピーには、そういった技巧を凝らす様子が一切みられません。
なんとも素直な言葉に、思わず笑みがこぼれた人も多かったのではないでしょうか。
このコピーは、あえて直球で単純な言葉を選ぶことによって、読み手に「つっこみどころ」を与えています。
この手法は、人の反応を引き出すという点において非常に有効です。
思わずつっこみたくなるような隙を与えることで、このコピーはあちこちで拡散され、多くの人々の目に触れることになりました。
隙をみせる手法は加減が難しいのですが、このコピーはその成功事例だといえるでしょう。
ごく単純な構造であるため、このコピーの構造をそのまま真似ることはできません。
しかし、「あえて隙をみせて話題性を引き出す」というテクニックには、うまくはまれば爆発的に広がる可能性が秘められています。
最後に:良質なコピーは「?」をつくる
さて、名作コピーを具体例として5つのテクニックを解説してきましたが、そのほとんどすべてに共通するポイントが1つだけあります。
それは、「読んだ相手に、一瞬だけ考えさせる」という点です。
今回紹介したコピーは、「3-5.あえて隙をみせる」以外はすべて、「どういう状況だろう?」「どういう意味だろう?」と少し考えさせるように作られています。
なおかつ、少し考えればすぐに答えが出るようになっているのです。
いいキャッチコピーとは、心を動かすキャッチコピーです。
心とは多義的・抽象的な概念で定義づけが難しいのですが、思考や意志も、たびたび心と呼ばれます。
思考を刺激するものは、心を刺激するものなのです。
伝えたいことを言い切るのではなく、ほんの少しだけ考えさせる。
相手に「?」の瞬間をつくる。
目的と対象が明確になっていれば、その瞬間は意図的に作り出すことができます。
戦略をもって頭で考え、数をこなしながらキャッチコピーを作っていきましょう。
決して楽な作業ではありませんが、センスやひらめきに頼るよりも、はるかに良質な作品を作り上げることができるでしょう。