正しい「引用」の定義とは?著作権法第32条の基礎知識
「コンテンツマーケティング」や「SNSマーケティング」などの考えが一般的になり、企業がWeb上で情報発信する機会も増えてきました。
企業ブログや公式SNSアカウントの運営担当者なら、Web上にある他人のイラストや写真を使用することも多いと思います。
しかし、その写真やイラストは、勝手に載せていいのでしょうか?
この疑問は、著作権法第32条で定められている「引用」を理解すれば解決できます。
今回は、他者の著作物引用に関する基礎知識を、わかりやすく解説します。
なんとなく許されるだろうと思っている人も、この機会にきちんと引用に関する知識を身につけておきましょう。
※今回は基礎的な部分の解説にとどまるので、実際にトラブルを抱えている方は著作権専門の弁護士に相談してください。
目次
1.そもそも著作権とはなにか
2.引用に必須!3つのポイント
2-1.主従関係
2-2.明瞭区別性
2-3.必然性
3.引用に関する裁判
4.ありがちな事例
4-1.書籍の紹介
4-2.写真の投稿
4-3.リンクの貼り付け
5.気を付けるべき事項
5-1.引用元をきちんと示す
5-2.一言一句まちがうことなく引用する
5-3.公表されているか確認する
6.まとめ
1.そもそも著作権とはなにか
インターネット上で見つけた写真やイラストを自分のホームページに載せることは、みんなやっていることなので、自由にやってよいことなのでしょうか?
いいえ、違います。
原則として、他人の写真やイラストを使用するには許可を取らなくてはいけません。無断で他人の著作物を使用することは、違法な行為です。
これを定めているのが著作権法です。
違反した場合には、損害賠償金を支払わなくてはいけません。
ときには罰金刑にも該当します。
中でも、とくに「引用」について定めているものが「著作権第32条」です。
著作権法第32条1項には、次のように定めがあります。
公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
しかし、これだけを読んでも分からないですね。
第32条で定められていることについて、詳しくみていきましょう。
2.引用に必須!3つのポイント
著作権法第32条の「引用」と認められるためには、3つのポイントを充たすことが必要です。
- 主従関係
- 明瞭区別性
- 必然性
2-1.主従関係
主従関係とは、「自分の文章がメイン、引用部分はサブ」ということです。
つまり、「他人の文章を長々と載せて、自分のコメントを最後に一言だけ載せる」というのは、正当な引用とは認められません。
しかし、「全体の何パーセント以内であれば許される」という具体的な基準があるわけではないため、正確な判断は難しいところです。
少なくとも、引用部分が半分以上を占めている場合は「自分の文章がメインである」とは認められません。
引用を行う際は、自分の文章と引用部分とのバランスに注意しましょう。
2-2.明瞭区別性
明瞭区別性とは、「自分の文章と引用した文章がはっきりと区別できること」です。
つまり、あたかも自分が書いたかのように他人の文章を引用することは許されないのです。
引用部分をはっきりと区別するためには、下記の方法があります。
- かぎかっこでくくる
- 引用部分だけ太字にする、文字の色を変える
- 引用部分の背景色を変える
これらの方法を用いて、読み手がはっきりと引用部分を区別できるように工夫しましょう。
Webの場合、blockquoteタグを使用すると「引用である」ということが明確にわかります。
詳細:引用を表すタグblockquote・q・citeの使い方とSEO効果
2-3.必然性
必然性とは、「文章の流れ上、他人の著作物を使う必要がある」ということです。
ここでのポイントは、「自然な流れで引用部分が紹介されているか」です。
自然な流れで文章が引用されていれば、「必然性がある」と認められます。
例えば、下記の文章を考えてみましょう。
昨日小説を読んだ。冒頭からぐいぐいと惹きつけられた。その冒頭は“彼は急に5階から飛び降りた“という文だった。5階から飛び降りて大丈夫だったのだろうか。続きが気になって仕方がなかった。
この場合は、「自分が惹きつけられた文章を紹介したい」という正当な理由があります。よって、必然性があると認められます。
それでは、他人のイラストを冒頭に載せて、その下に全く関係のない日記を書いた場合は、どうでしょうか?
この場合は、「アクセス数を稼ぐために他人のイラストを利用した」と捉えられてしまうので、必然性があるとは認められません。
他人の著作物を引用するときは、その著作物が自然な流れで登場しているかどうか、十分気をつけましょう。
3.引用に関する裁判例
元サッカー選手の中田英寿さんは、引用について裁判で争ったことがあります。
この事件は、ある出版社が、中田さんが中学の卒業文集に書いた詩を、無断で書籍に掲載したことに始まりました。
中田さんは、「著作権の侵害だ」と主張して、出版社を訴えました。
出版社は、「中田さんの人生を紹介する流れとして、中学時代の詩を紹介する必要があった。正当な引用である」と主張しました。
裁判では、「主従関係」が争点となりました。
「出版社の文章がメインで、中田さんの詩がサブといえるか」ということが争われたのです。
結論としては、中田さんが勝訴しました。
中田さんの詩は、全15行にわたるものでした。書籍には、この詩が丸ごと掲載されました。
しかし、出版社の文章は「中学の文集で中田が書いた詩。強い信念を感じさせる」という、たった一言のコメントだけでした。
そこで裁判所は、「中田さんの詩がサブとはいえない、むしろメインである」と判断しました。
この事件からいえることは、「引用をおこなうときは、あくまで自分の文章を中心とすること。他人の文章を引用するときは、最低限の範囲に限って抜き出すこと」ということです。
4.ありがちな事例
さて、「引用」と一言でいっても、著作物にはイラストや文章、画像や動画など、様々な種類があります。それぞれの場合ごとに注意点をみていきましょう。
4-1.書籍の紹介
書籍をホームページで紹介するときには、どのようなことに気を付けたらいいでしょうか?
小説のストーリーや書籍のコンテンツそのものには、著作権が存在しません。よって、書籍の内容にふれながら感想や批評を書くことは、基本的に自由です。
ただし、書籍を紹介する途中で、自分が感動した文章や気に入ったセリフを引用する際には、引用の3つのポイントを充たすことが必要です。
注意すべき点は、「本の目次についても著作権が存在する」ということです。
目次を掲載するときにも、引用の3つのポイントを充たしているかどうか、必ずチェックしておきましょう。
4-2.写真の投稿
4-2-1.自分が撮影した写真
写真をインターネット上にアップロードするときは、どのようなことに気を付けたらいいのでしょうか?
まず、自分が撮影した写真については、自分に著作権があります。引用の3つのポイントを気にすることなく、自由に投稿することができます。
ただし、その写真をよく見てみましょう。
他人の著作物が写っていないでしょうか?
たとえば、CDのジャケットを撮影した場合を考えてみましょう。CDジャケットのデザインは著作物です。
よって、CDジャケットの写真をアップロードする場合は、引用の3つのポイントを充たさなければなりません。
4-2-2.他人が撮影した写真
次に、他人が撮影した写真について考えてみましょう。
写真の著作権は、写真の撮影者にあります。
撮影者の許可なく写真を使用する場合には、引用の3つのポイントを充たすことが必要です。
Tips!
写真に人物が映っている場合は、注意が必要です。
その人物の許可を取らずに写真を使用すると、肖像権の侵害になることがあります。自分が撮った写真でも、他人が撮った写真でもこれは変わりません。
もちろん、風景の一部として人物が小さく映り込んでいる場合は、肖像権は問題とはなりません。
しかしはっきりと顔が映っていて個人が特定されるような場合には、肖像権の侵害となります。
インターネット上には、著作権フリーの画像がたくさん転がっています。しかし、いくら撮影者が著作権を放棄していても、写真に写っている人物の許可がなければ、写真を自由に使うことはできません。人物が映っている写真を使用する際には、その人物の許可が取れているのかどうか、必ず事前に確認しましょう。
4-3.リンクの貼り付け
ニュースサイトや動画サイトのリンクを張るときには、どのようなことに気を付けたらいいでしょうか?
著作権侵害とは、「他人の著作物をそっくりそのまま複製(コピペ)すること」です。リンクを張るだけであれば、そもそも「複製」とはいえないので、自由に行うことができます。
では、リンクを張るだけでなく、ニュースの記事の文章をそのまま自分のブログに載せる場合はどうでしょうか?
この場合は、「複製」に該当するので、引用の3つのポイントを充たすことが必要です。
また、ニュースサイトには、引用に関するガイドラインが載っていることが多いので、引用を行う際には必ずガイドラインをチェックしましょう。
動画サイトのリンクについても、リンクを張ること自体は自由に行うことができます。
ただし、埋め込み型のリンクについては、「あたかも自分が撮影した動画のように表示される」ということで、許されるかどうかについては、判断が分かれています。
許されるという意見が多数派ですが、埋め込み型のリンクを張る際には、「この動画はXXというサイトで見つけました」と示すなど、他人の著作物であることを明確に示しておきましょう。
5.気を付けるべき事項
5-1.引用元をきちんと示す
引用する際には、「どのサイトで見つけたものか」「誰の名義で発表されているか」について、きちんと表示しなくてはいけません。
インターネット上では、本名で発表されていない写真やイラストがたくさんあります。その場合は、検索して分かる範囲で表示すれば十分です。
たとえばアカウント名しか分からない場合は、アカウント名を表示すれば足りるとされています。
5-2.一言一句まちがうことなく引用する
文章を引用する際は、一言一句間違えることなく、正確に引用しましょう。
文章を断片的に切り貼りするなど、改変して引用すると「著作者人格権」の侵害になってしまいます。
写真やイラストを引用するときにも注意が必要です。
写真やイラストの色合いを勝手に変えてしまうと、やはり「著作者人格権」の侵害になってしまいます。
色合いや作品の雰囲気を正確に再現し、作風を損なわないように十分配慮しましょう。
5-3.公表されているか確認する
引用が許されるのは、「既に公表された著作物であること」が前提です。
インターネット上で見つけたものを使う場合は、既にインターネット上に発表されているものなので、この点を心配する必要はありません。
ただし、友人がノートに書きとめた小説を勝手にブログで紹介すると、未発表のものを勝手に公開してしまうことになり、著作権侵害となってしまいます。
この場合は、引用の3つのポイントを充たしていても違法行為となってしまうので、注意しましょう。
6.まとめ
インターネット上で他人の著作物を使用するときには、事前に許可を取ることが基本です。許可を取らずに「引用」として使う場合でも、3つのポイントを充たすことが必要です。
インターネット上には他人の著作物があふれています。うっかり著作権を侵害しないためにも、3つのポイントを充たすかどうか、慎重に検討しましょう。
著者:田中靖子(たなかやすこ)
法律家、ライター。
東京大学卒業後、2009年に司法試験に合格、弁護士として企業法務、知的財産権等の業務を扱う。
2012年に弁理士登録。現在はスウェーデンに在住し、法律ライターとして法律関連の記事の執筆や講演等の活動を行う。