Dropboxの新サービス「Project Infinite」の問題点|カーネル上で動作する危険性を考える
2016年4月26日、Dropboxが新サービス「Project Infinite」を発表しました。
クラウドにしか保存されていないファイルでも、PC上のファイルと同じように、エクスプローラー上で閲覧できるようになるというサービスです。
開発段階なので料金設定や仕様など細かい情報は公開されていませんが、PCのストレージを圧迫せずにクラウド上のファイルを共有できるサービスとして期待が寄せられています。
しかし、この機能を実現するためには、OSの核となるカーネル上でDropboxを動作させなければならないとも発表されています。
今まで以上にPCへのアクセスを必要とするこのサービスは、PCのセキュリティ上好ましいものではない、との声も数多く見受けられます。
非常に便利そうな機能の反面、なぜ批判が相次いでいるのでしょうか。
現段階で発表されているProject Infiniteの仕様をまとめ、何が問題なのかを整理してみましょう。
1.Project Infiniteの概要
Project Infiniteの最大の特徴は、「クラウド上のファイルを、PCに保存することなくエクスプローラー上で閲覧できる」という点です。
今までのDropboxでも、デスクトップアプリをインストールすれば、クラウドのファイルをエクスプローラー上で閲覧することは可能でした。しかし、フォルダごとに同期の設定をしなければならなかったため、必要のないファイルまでPCに保存されていたのです。
たとえば、Aさんが「アメコミ」というDropboxのフォルダに「デッドプール.docx」というWordファイルを保存したとします。
Bさんが「デッドプール.docx」を閲覧するためには、Dropboxの設定で「アメコミ」フォルダの同期をオンにしなければなりません。すると、「アメコミ」フォルダの他のファイルも、BさんのPCにダウンロードされてしまうのです。
「アメコミ」フォルダの容量が小さければ問題にはなりません。
しかし、動画のような大きなファイルが「アメコミ」フォルダ内に保存されていた場合、Wordファイルを見るために何GBものデータをダウンロードしなければならないのです。
この問題を避けるためには、クラウドのフォルダを整理して、同期設定を細かく設定しなければなりません。
デスクトップアプリを使わずにWebブラウザからDropboxにアクセスすることもできますが、毎回ファイルをダウンロードする手間がかかってしまいます。
今回発表されたProject Infiniteは、こういった問題を一気に解決するサービスとして注目を浴びています。
Project Infiniteのデモ版では、従来のDropboxでは見慣れた緑のチェックアイコンと、新たに追加された雲のアイコンが表示されています。
緑のアイコンは今までどおり、クラウドのファイルとPCのファイルが同期していることを示しています。つまり、クラウド上のファイルと全く同じものがPCにも直接保存されているということです。
雲のマークは、「クラウド上のみに保存されている」という意味です。エクスプローラー上で表示されているものの、雲マークのファイルはPCのストレージには保存されていません。
なので、雲マークのファイルのプロパティでは、ファイルのサイズは0バイトと表示されています。
雲マークのファイルをクリックすると、自動的にそのファイルが同期されるため、PC上のファイルを開くのと操作は変わりません。
また、コンテキストメニューから「Save local copy(ローカルに保存)」を選べるようになっています。
これは、「営業先など、インターネット環境がないところに商談用のファイルを持っていくときに便利な機能」だと説明されています。
必要なファイルを、必要な時だけPCと同期することができるため、PCのHDDやSSDの容量を気にする必要がありません。
ですから、会社で使っているファイルをすべてDropbox上に保存しても、各人が快適に利用できるのです。
とくにHDDよりも容量の少ないSSD利用者にとっては、非常にありがたいサービスだといえます。
2.Project Infiniteの問題点
非常に有益そうな「Project Infinite」ですが、すでにいくつか問題点も上げられています。
5月24日に公表された詳細情報の内、「Project Infiniteはカーネル上で動作する」という点が主な批判の原因となっています。
カーネルとはOSの核となる部分で、さまざまなソフトウェアや、プリンターなどの外部デバイスの入出力を管理する役割があります。
カーネル上でDropboxが動作するということは、PCのありとあらゆるファイルへのアクセス権をDropboxに渡すということになります。
もし万が一Dropboxのセキュリティ対策に穴があった場合、PCが無防備な状態になってしまう危険性があるのです。
カーネル上で動作するということは、プライバシーの観点からも問題視されています。
Dropboxがサーバーへ送るデータは限られるはずですが、PC上のすべてのデータにアクセスされるというのは、ユーザーからすると気持ちのいいものではありません。
数々の批判に対して、Dropboxは「マウスのドライバーやウイルス対策ソフトも、多かれ少なかれカーネルにコンポーネントを加えたりしているということを忘れないでほしい。私たちも細心の注意を払っている」と公式ブログで発表しました。
今までのサービスと新サービスの違いについて、City College of San FranciscoでEthical Hacking(倫理的ハッキング)を教えているSam Brown氏は、「今まで家の外でホットドッグを売っていた人が、急に家に来て“あなたの家の合鍵を作りたい。あと、居候させてほしい”と言ってくるようなものだ」と表現しました。
サービス開始前から様々な批判が相次ぐProject Infiniteですが、これらの問題点を乗り越えて成功することができるのでしょうか。
3.おまけ|Project InfiniteはInfinitのパクリなのか?
Dropboxは新サービスであるProject Infiniteを発表しました。しかし、これは、フランスのInfinitというサービスの模倣ではないかといわれています。
フランスの企業であるInfinit International Inc.は、Proect Infiniteと似たような構想のサービスをすでに展開しています。
同企業は「Dropboxは、我々のサービス名にeを付け加えただけだ」との批判も込め、Project Infiniteが発表された二日後にProject Dropboxeを発表しました。
Project DropboxeはInfinitとほとんど同じ仕組みのサービスですが、Dropboxを組み込んだことにより、既存のサービスよりもストレージ容量が半分ほどになった「劣化版」として紹介されています。
InfinitのブログではProject Dropboxeの発表と共に、「ごめんね、Dropbox。我慢できなかったんだ。僕らがここ数年かけて作り上げてきたPtoPファイルシステムに、僕らの名前を付けてくれるなんて、こんな名誉なことはないよ」と、皮肉たっぷりのコメントが添えられています。
【参考ページ】
- Dropbox Wants More Access to Your Computer, and People Are Freaking Out
- Project Infinite Demo
- Dropbox’s Infinite feature needs deeper access to your computer